LGBTに関する理解を深めるため、運動の先頭に立つ増原裕子さんの話を続けます。
前回、増原さんの講演を紹介する中で、特に印象に残ったのは北海道についての言及です。
「わたしは講演で全国各地を歩いていますが、北海道は偏見が少なく、平等意識が浸透していて、思いやりの精神が強い。LGBTの理解が全国的にみて最も進んでいます。心強い」
これは、何よりも、札幌市の政策が先進的、先駆的であるからだと、わたしは自負しています。LGBTのパートナーシップ宣誓制度を全国の政令指定都市に先駆けて導入したのは札幌市です。その取り組みのひとつである「LGBTフレンドリー指標制度」については、すでにお話ししました。
この制度は、LGBTの人が働きやすい職場づくりをどの程度進めているかを数値化して評価する取り組みで、現在、札幌市内で48の企業が登録されています。最高の「3つ星」を獲得しているSTVラジオは、LGBTの情報発信番組(Knock on the Rainbow)を独自制作し、放送していることに触れましたね。このSTVラジオの取り組みこそが北海道の先進性を象徴しているのではないでしょうか。
放送時間は毎週土曜日の午後9時30分から同10時。面識がありませんが、パーソナリティーは飲食店を経営するケンタさんが務めています。放送開始は2018年4月というので、番組はもう3年続いています。当事者の悩みを聞いたり、LGBTを取り巻く社会問題を取り上げたり…。相方の中村笑野さんとの軽妙な掛け合いで、30分はあっという間です。
札幌で毎年秋に開催される「さっぽろレインボープライド」の盛り上げにも、番組は大きく貢献しているようです。LGBTの連帯の輪を広げるパレードは、昨年、コロナウイルスの感染拡大により全国各地で中止となりましたが、札幌では厳しい感染対策のもと、9月12日に大通公園を主会場に実施されました。
わたしはこのパレードの開会式に、行政のトップである秋元克広市長が自ら出席して、参加者を激励している姿に、その先進性を見ます。これからもLGBT行政のトップランナーを担ってほしい。こう強く願っています。
さて、増原裕子さんの話に戻りましょう。みなさんは最近、カミングアウトという言葉を耳にすると思います。これまで公言してこなかった自らの出自を表明することを指しますが、とりわけ性的指向について「真の姿を開放する」という意味で使われるようになりました。
増原さんは講演の中で、「職場でカミングアウトしたいと考えている20~30代のLGBTの人たちが少しずつ増えてきました。しかし、まだまだ言えない雰囲気があります」と語りました。そのうえで、企業経営者に対して、「性的弱者の人々がカミングアウトしても、しなくとも、安心して働くことができる職場を実現してほしい」と訴えました。差別やハラスメントのない職場の実現は、われわれの社会にとって最も重視されなければならないのです。
増原さんは2015年4月、全国で初めて同性カップルを結婚に相当する関係と認める東京・渋谷区の「パートナーシップ証明書」交付の第1号となりました。パートナーだった東小雪さん(元宝塚歌劇団の男役)とは2年後、関係を解消しますが、2018年には経済評論家として知られる勝間和代さんとの新たな交際を発表します。勝間さんとの関係も1年足らずで破局を迎えますが、その際、「わたし自身、別の生き方を模索したいと考えるようになりました」とのメールを頂きました。
LGBTとしてパートナーの関係を維持していくのは案外、難しいのでしょうか。ほぼ同時期、増原さんに大きな転機が訪れます。2018年12月16日投開票の参院選京都選挙区への出馬を立憲民主党から要請されたのです! 増原さんは、レズビアンとして政治家を目指す決意を固めます。連合京都も、国民民主党も、そして社民党も目玉候補として推薦を決め、選挙に臨みましたが、結果は……共産党の現職議員に大差をつけられ落選しました。
盤石の選挙戦だったはずが……有権者のLGBTに対する無意識の偏見・差別が反映されていなかったか。こんな臆測はあまり意味がありませんね。残念な結果でした。
増原さんは現在、兵庫県明石市で新たな人生を歩み始めています。多様な性への理解を進める政策立案者を明石市が公募したのを知り、これに応募して専門職員に選ばれたからです。レズビアンとしての多彩なアイデアを行政に反映させてほしい。わたしは、今後の活躍をずっと応援していきたいと思います。