わたしが飛び込んだ世界は、少し“複雑”になってきました。冒頭、その流れを整理してみたいと思います。
最近よく耳にする「ダイバーシティ」(diversity=多様性)について思考を深めるのが今回の目的でした。アイヌ文化の素晴らしさを再発見するのもそのひとつ。まず、松前藩の家老・蠣崎波響が描いた幻の名作「夷酋列像」がミステリーのごとく発見された、フランス東部のブザンソンを訪ねる旅に出ました。アイヌ文化がいかに豊かで奥深いか。偏狭なナショナリストが唱える「単一民族発言(アイヌ蔑視)」の愚かさを知ることにつながりました。
多様性のある社会を実現するには、人種や国籍、肌の色、性別の異なる人々との共存が欠かせない。こんな視点から、性差のないジェンダーの平等についても考えてきました。軌を一にするように、女性を蔑視する発言が横行し、東京五輪・パラリンピック組織委員会のトップだった森喜朗氏が失脚します。同性婚を認める画期的な地裁判決もありました。国会では、夫婦別姓をめぐる熱い論戦も……。ジェンダーに関する話題は事欠きません。それはとりもなおさず、現代社会においていかに重要なテーマであるかの裏返しといってよいでしょう。
そして前々回からは、男女の性を考えるため、「性的マイノリティー(少数者)」と称されるLGBTの人たちに歩を進めました。その活動家として、一線で活躍するのが増原裕子さんです。道内での講演会の開催にわたし自身、関与した経験から、その貴重な話の一部をみなさんに紹介しているところです。
増原さんは、性的少数者と呼び倣わされるLGBTについて、「実際には少数ではない」と語り出しました。民間の調査によると、LGBTの割合は人口比で7・6%、13人に1人の確率で存在しています。ではなぜ、少数者と言われるのでしょう。それは、大半の人が口をつぐんで自らの性的指向を明らかにしないからです。
増原さんは、自らの体験も率直に話してくれました。好きになる人や憧れる人が異性ではなく、常に同性の女性であることに「どうしてだろう」と気付いたのが小学生の頃だったといいます。以来、自らの性に悩み、葛藤を抱き続ける中、大学院時代にパリで暮らしたのをきっかけに、「自らの性を前向きにとらえられるように」なりました。そして、得た結論……。
「性のあり方は肌や目、髪の毛の色などと同じように、生まれつきの属性であり、その人の個性を形成するアイデンティティの根幹である」
帰国後、LGBTへの理解を深めてもらうため、企業経営者を対象としたコンサルティング会社を設立します。全国各地を講演で回る中で、北海道は思いやりの精神が強く、偏見の少なさや平等意識の浸透とともに、理解が大きく進んでいると話していました。さらに、「多種多様な人材の採用は、組織を強くすることにつながる。LGBTの人たちはとりわけ、弱者に寄り添う視点、きめ細かな考え方や行動を伴う傾向があるので、環境に優しいフレンドリーな商品を開発するうえで必ず力になる」。こう語ったのが印象に残ります。
わたしたちが暮らす札幌市は、LGBTのパートナーシップ宣誓制度を全国の政令指定都市に先駆けて導入しました。その取り組みのひとつに、LGBTフレンドリー指標制度があります。札幌市の担当部署は、「札幌市市民文化局男女共同参画室男女共同参画課」です。(随分長い名称。もう少し親しみの持てる部署名を考案してみては!)
「フレンドリー指標制度」というのは、LGBTの人が働きやすい職場づくりをどの程度進めているかを数値化して評価する取り組みです。札幌市は3年前から、LGBTに理解のある企業を登録し、ホームページで公表しています。2021年3月現在、登録されているのは48社にのぼります。
病院やドラッグストア、生命保険会社、弁護士事務所、会計士事務所…。実に多彩です。北海道新聞社もそのひとつですが評価は「1つ星」。最高の「3つ星」を獲得したSTVラジオは、毎週土曜日の夜、LGBTの情報発信番組(Knock on the Rainbow)を自社制作し、放送しています。社内には男女の区別をつけないバリアフリーのトイレも設置されているそう。ぜひ一度、社内を見学してみたいですね。
増原さんはこうした北海道の取り組みを称賛しながら、企業は今後、社員を採用する段階で、性別を問うのを廃止したり、福利厚生の制度を同性パートナーに拡充したりする必要性を説きました。企業経営にとって、こうした基準がごく普通のスタンダードとなる日は、意外に早く来るかもしれない。わたしはそう思います。世の中を変えていくのは、わたしたちの意識と行動にかかっているのです!