この人の顔を随分見てきました。気が付けば、わが国の憲政史上最長の在任期間を更新中。途中大腸の病気を患って、泣きそうな顔で政権をほっぽり出し、その後、民主党政権を挟んで、奇跡の再登板。あれから早7年半が経過したのです。
いわずもがなの安倍晋三首相。隣は昭恵夫人です。夫婦そろって権力をほしいままにしてきた。こんな印象を持つのは、わたしだけでしょうか。権力は腐敗する。その言葉通り、この7年半、数え切れないほどの不祥事を連発し、それでもなお権力の座に居座り続ける。何とも不思議な光景です。不祥事のどれもが内閣総辞職に値する重大なものだったと思います。
不祥事を列挙するのが今回の目的ではありません(列挙したらいくらスペースがあっても足りません)。それでも、ざっと振り返ってみると…。河井克行前法相と妻の案里・参院議員の逮捕・起訴、東京高検検事長の辞任、「桜を見る会」の私物化もありました。森友問題の文書改竄問題とそれを指示された職員の自殺。そうそう。森友学園が大阪の国有地をただ同然で購入し、その学園の名誉校長を昭恵夫人が務めていました。「私や妻が関係したということになれば、首相も国会議員も辞める」と国会答弁で凄みと睨みをきかせ、官僚たちを震え上がらせます。霞が関・永田町を支配する「安倍一強」の恐ろしい恫喝でした。
振り返れば何人の大臣が辞めたことか。答弁もろくにできない五輪担当相もいましたね。そのたびごとに発せられるお決まりのフレーズ。「任命権者として責任を痛感している。真摯に受け止める」。あまりにも軽~い言葉と反省のなさ。国民はもはや軽薄さに慣れっこです。
みなさん、新聞やテレビでよく、内閣支持率という言葉を目にしますね。マスコミ各社が1カ月ごとに世論調査を行っていますが、最近、安倍政権に対する国民の支持率が急落傾向にあります。ずさんなコロナ対応、国会も開かず、記者会見もせず、国民に背を向けている首相への不信感の表れでしょうか。直近のNHKの調査では「支持しない」が45%で、「支持する」の36%を大きく上回りました。
いつも思わず笑ってしまうのは、「支持しない理由」です。断トツで筆頭にくるのは「人柄が信頼できないから」。この調査でも40%を占めています。安倍政権はみなさんご承知の通り、一貫して憲法改正に執念を燃やし、政治生命を懸けると息巻いてきました。わたしははっきり言って、この人に憲法改正を任せるのは危険だと思います。
理由は簡単です。世論調査にあるように、実に多くの国民がこの人の「人柄が信頼できない」と答えているからです。国民の信頼を得ていない人物が、戦後日本の支柱であり、日本の宝でもある「平和憲法」をいじってはならない。これが、わたしの問題意識です。
前回まで、わたしたちは小さな旅を続けてきました。サンピエール、ルソー、カント。欧州の聖職者、思想家、哲学者が18世紀に発想、提唱した「戦争放棄」の思想を巡る旅です。長い旅路ではありましたが、1710年の「永久平和論」の中で、「戦争放棄」の考えが明確に示されていたことを確認しました。
それから300年。高邁な理想はその後、どの国においても、一度たりとも実現できなかったことを考えると、道のりの遠さを感じます。「戦争放棄」の水脈を辿ったのは、その到達点と言える日本国憲法を開いて、もう一度、考えてみたかったからです。
フランス法を学んだ憲法学者には伝統的に「護憲論者」が多い。ずいぶん前の回で、こんなお話をしました。憲法学の「泰斗」として知られる東大名誉教授の樋口陽一さん(85)も、若き頃、パリ大学に学びました。その背景にあるのは、(何度も繰り返しになりますが)フランスが「人権の母国」と言われ、フランス革命や政体の激動、度重なる戦争を経る中で、市民の権利を守り抜く「自由で平等な社会」を構築してきたからにほかなりません。
では、日本国憲法を守るとは、一体、何を守るのでしょう。みなさん、日本国憲法の3原則を記憶していますか? 中学の時に学び、暗記させられましたね。
①国民主権
②基本的人権の尊重
③平和主義
②基本的人権の尊重
③平和主義
特筆されるのは、③の平和主義。その象徴として存在するのが憲法第9条なのです。フランスの人権宣言の文言と比べながら、その類似性を指摘したことがありました。「憲法を守る」とは言うまでもなく、「戦争放棄」を謳った「第9条を守る」ことに帰結します。
では、「憲法9条」を考える新たな旅に向けて出発しましょう。