ことし1月の当ブログ「原作は?」で、ツェムリンスキーのオペラ「フィレンツェの悲劇」を紹介したのを覚えていてくださる人はひとりもいないとは思いますが、それの舞台上演を東京・初台の新国立劇場で見てきました(4月14日)。
声楽陣(といっても登場人物は3人だけ)がちょっと弱く、複雑な響きのオーケストラ(東京フィル)に負けがちだったのは残念でしたが、ツェムリンスキーと原作のオスカー・ワイルドの退廃の世界は十分に楽しむことができました。
指揮のマエストロ沼尻竜典は、ライトモティーフの際立たせ方が実に入念で、ツェムリンスキーがスコアに書き込んだ物語の展開を、目をつぶっていても分かるように鮮やかに描き出していたと思います。
プログラムによるとこのオペラの日本初演は、新国立劇場の芸術監督であるマエストロ大野和士、1992年だそうです。沼尻氏も2002年名古屋フィルで、2004年に新日本フィルで指揮しているといいますから、今回の上演も画期的というほどではなかったのですね。
これも以前のブログに書きましたが、大野氏は東京フィル常任指揮者時代に「オペラ・コンチェルタンテ」というシリーズを企画して、ツェムリンスキーやシュレーカーなどいわゆる「退廃音楽」も積極的に取り上げました。
以前のブログ【続・続ジャケ買い(またはジャケ美術館・その2)】
わたしは当時たまたま東京で勤務していたので、大野氏指揮の「はるかなる響き」(シュレーカー)や沼尻氏指揮の「こびと」(ツェムリンスキー)を見ていて、「東京ちゅうところは、いいところだなあ」と感涙にむせんだ(?)のを覚えています。
大野氏が新国立劇場の芸術監督になって、沼尻氏らとあらためてこうした音楽の紹介に努めてくれることは、とても素晴らしい。北海道在住者としてはお金が大変ですが。
今回の上演、「ダブル・ビル」といって、2本の短いオペラを組み合わせて上演するものでした。2本立てですね。で、組み合わされたのがプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」でした。
こちらも、「フィレンツェ…」よりはポピュラーとはいえ、上演機会は少ない作品です。「フィレンツェ…」とは対照的なドタバタ喜劇。共通点といえば、物語の舞台がフィレンツェであること、登場人物にシモーネという男がいるぐらいですが、まあ、プッチーニが例によってわかりやすい音楽を書いており、登場人物が多い割には物語の展開は単純なので、ほとんどなじんでいないわたしにも楽しめる上演でした。
ここで強引にこの夏の札幌文化芸術劇場hitaru公演の話になります。8月3、4日のオペラ「トゥーランドット」(プッチーニ作曲)。ついにマエストロ大野の登場です。自身が音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団を引き連れてやってきます。
わたしの印象では、大野氏といえばドイツ・オペラですが、新国立劇場芸術監督としてはイタリア・オペラとロシア・オペラにも力を入れています。また、2015年にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演したときは、ヴェルディの「椿姫」で、深い譜読みを披露していましたので、期待はとても大きなものがあります。
「トゥーランドット」は、テノールのアリア「誰も寝てはならぬ」が飛びぬけて有名ですが、それだけでなく、主役・トゥーランドット姫の超絶技巧的なアリアなど聴きどころは満載です。
残念ながらチケットはすでに完売していますので、買えなかった人にはこれ以上書くのは残酷かもしれません。
大野氏よりももっと有名な日本人指揮者はいますが、実力は彼がぴか一だとわたしは思っています。チケットを買えなかった人も、彼の名前は記憶しておいてほしい。
…とまた残酷な話をしてしまいました。ごめんなさい。この辺でやめておきます。
今回のプロダクションについては、「オペラ夏の祭典」のホームページをご覧ください。