「来年のことを言うと鬼が笑う」

という言葉があります。どういうことなのか。
起源には諸説あるようです。有力なのは、鬼は人間の寿命を知っており、何も知らない人間が将来の望みを語るのを見ると笑ってしまう、という説。賢い鬼が「上から目線」で愚かな人間を見てあざ笑っているのですね。

鬼は粗野な乱暴者のイメージがありますが、そうではなくて実は賢い、というところがミソ。「鬼才」などという言葉もあるくらいですから、決めつけは禁物です。


諸説のなかには、年末にふさわしいこんなのもあるそうです。

節分の豆まきが大晦日の行事だったころ、大和の東端の曽爾(そに)という国の話。
鬼が村にやってきては悪さをし、人々は困っていた。殿様は一計を案じ、鬼に提案した。「悪さをやめたら殿様にしてやる。ただし条件がある。庭にまいた年越しの豆が芽を出したのを見つけてこい」
鬼は条件をのんだ。村人たちは、決して芽が出ないようにと真っ黒焦げになるまで炒った豆を庭にまいたので、鬼が必死に芽を探しても見つからない。
ところがある豆から芽が出てしまう。これを見つけた鬼は狂喜して殿様のもとに走ったが、戻ってみると豆がない。村人が抜いてしまったのだ。
泣いて悔しがる鬼に役人は「来年も年越しがある。そのときまた探したらいい」と慰めた。それを聞いた鬼は「自分のことを毛嫌いしている人間が来年のことを言ってごまかすなんて」と、泣くのをやめ、苦笑した。


そういえば鬼にはあまのじゃく(天邪鬼)という鬼もいます。あまのじゃくを自認するわたしがこれを聞いて思い出したのは、ワーグナーの歌劇「タンホイザー」です。


ドイツ・チューリンゲンの吟遊詩人タンホイザーは、妖界の女王ヴェヌスの魅力の虜になり、禁じられた快楽の洞窟に遊んでしまいます。そこにも飽きて人間界に戻ってきた彼、最初はヤバい過去について口をつぐみます。しかし、領主主催の歌合戦に久々に参加すると、お題は何と「愛の本質について」。詩人仲間が精神的な純愛を賛える歌ばかり歌うのを聞いて、ついつい禁断の世界で体験した性愛のすばらしさを歌にしてしまう。
忌み嫌う世界に行ったことをカミングアウトした放埓男を、領主や吟遊詩人仲間が許すはずはありません。タンホイザーは、清純な領主の姪エリーザベトのとりなしで、ローマに巡礼して教皇(法王)の恩赦にすがることを求められます(有名なタンホイザー序曲の主題は巡礼の合唱なのです)。心から反省したタンホイザーは、つらい巡礼の末にローマに着きますが、教皇は巡礼者を次々と祝福するのに、彼だけは許してもらえません。「私の杖から新芽がふくことがないように、お前の罪は許されないのだ」と。
のろわれたタンホイザーを救ったのは、彼を愛するエリーザベトの命を投げ出した献身でした。タンホイザーが安らかな死を迎えたとき、杖からは若々しい緑が芽吹いていたのでした。


どうです。東西の「芽吹き伝説」がここで出会いましたね。
ついでに、鬼はもともと女性だったという話もある。つまり、タンホイザーを快楽の洞窟に誘ったヴェヌスは鬼だったと考えると、東西の「鬼物語」も対比することができる。
うーん、話のレベルがあまりに違っていて無理があるか。



年末のご挨拶です。今年も1年ありがとうございました。



ここで鬼を笑わそうと思います。来年も道新文化事業社は多彩なイベントをお届けする予定です。
特に例年になく大型事業が目白押し(友好社、友好団体との共催を含む)。
3月末の市川海老蔵六本木歌舞伎(全6回公演、完売)
5月のさっぽろ落語まつり(3日間13公演、残僅少公演続出)
8月の大相撲北海道巡業(函館、札幌、釧路計4日間、3月発売予定)
9月のミュージカル「レ・ミゼラブル」(8日間10公演、2月先行販売開始)
各公演とも、詳細は道新プレイガイドのホームページをご覧ください(大相撲はもう少々お待ちください)。
会場で多くのお客様をお迎えできることを楽しみにしています。

2019
2019


道新プレイガイドと札幌市民交流プラザのチケットセンターは29日から1月3日までお休み、4日午前10時から営業します。どうぞご活用ください。

2019年がみなさまにとってよい年となりますよう。

*写真は来年のお薦め公演のチラシ。会社の応接室でお客様に見ていただいています