ちょっとだけ酔っぱらって、日付変更線をまたいで帰宅すると、かねて予約していたCDが届いていました。

ルドルフ・ケンペ(1910-76)指揮ドレスデン・シュターツカペレのリヒャルト・シュトラウス管弦楽曲・協奏曲全集(9枚組SACD)。
1970年代に旧東ドイツの国策レコード会社とEMIが共同制作した超名盤を、日本のタワーレコードのスタッフがSACDにリマスターしたものです。
まずは風呂に入って体を清め、ちょっとだけ聞いてみることにしました。
夜中の1時を大きく回っています。例えば、有名な「ツァラトゥストラ」や、「アルプス交響曲」、大好きな「死と浄化」など、徐々に大音響になる曲を聴く時間ではない。でも、オーディオ効果を確かめたい。選んだのは「英雄の生涯」でした。
若いころ、LPが出るのを待ち構えたように買い求め、じっくり聴いた曲です。

驚くほど素敵な音が鳴りだしました。
SACDは、音の定位がいいのが特徴だと思っています。大編成のオーケストラの各楽器が、しかるべき位置から目のつんだ音を放つ。その立体感はたまりません。
実はSACDリマスターは、それほどの効果が感じられないのに値段だけ高いというものが少なくないのです。でもこれは、いい、というか、すごい。
最後まで聴きたかったところですが、夜中ですし、明日も普段通り出勤しなければなりません。
残りはあとでゆっくりと。

さて、ことしもこの1年に聴いたCDから3タイトルを選んでみたいのですが、ぎりぎりに駆け込んできたこの全集をどうしたものか。
新譜とはいっても再発売ですし、全部を聴いていない。
書き出しで取り上げたことでリストからは外し、ほかの曲を選ぶことにします。



【第1位】は、エリシュカ(1913-)指揮札幌交響楽団のさよならコンサート「シェヘラザード」で決まりでしょう。

elishka


マエストロ・エリシュカには、本当に音楽を聴く喜びを教えてもらいました。どの演奏も忘れ難いものです。高齢でもう来日はかなわない、といわれれば、あきらめるしかないのですが、深い「エリシュカ・ロス」に見舞われている音楽ファンは多いはずです。
彼と札響の演奏はほぼすべてCDになっており、手元にありますが、「最後の1枚」はやはり感慨もひとしおです。
「ベストCD」というよりは「ベスト音楽体験の記録」。理屈を超えた1枚です。写真はCDと、定期演奏会のプログラムの1ページから。



【第2位】は、スウェーデン出身の名歌手ビルギット・ニルソン(1918-2005)のライヴ・レコーディングス31枚組。

nilsson
nilsson


1960-70年代、並ぶもののないワーグナー歌手として君臨した彼女の、生誕100年記念リリースです。かなり貴重な録音も含まれており、特別扱いのエリシュカ盤がなければ、ダントツに選びたかったもの。
実はまだ全部を聴いていないのですが、しばらく前に読んだ自伝「オペラに捧げた生涯」(春秋社)を思い出しながら曲目リストを見ているだけでも楽しいものです。記念の年ということで、ドキュメンタリー映像も同じ写真を使ったデザインで発売されました(写真はCDボックス、ブルーレイ・ディスク、自伝の3点セット)。
自伝で彼女は、帝王カラヤン(1908-89)をかなりはっきりと批判しているのですが、CD集にはカラヤンの指揮で1969年にニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で歌った「ワルキューレ」も含まれています(海賊版はすでに持っていましたが)。



【第3位】には、シャンソンを取り上げましょう。フランスの名ピアニスト、アレクサンドル・タロー(1968-)がプロデュースし、もちろんピアノ伴奏を担当した「バルバラ」。

barbara


これは昨年9月のリリースで、本来ならことしの選抜の対象外かもしれませんが、レコード芸術誌にはことしの1月号でやっと取り上げられたので、セーフとしましょう。
タローはバルバラ(1930-97)と親交があり、彼女の葬儀にも参列。トリビュートアルバムをつくるのが念願だったそうです。
もちろん、歌はバルバラ本人ではなく、タローが声掛けしたいろんな歌手たちが、声質にふさわしい歌を歌っています。これこそ夜中にひそかに聴く音楽。
クラシック・ギタリストのロラン・ディアンスが編んだ「フランスのシャンソン集」に、彼女の曲が2曲はいっており、わたしもレパートリーにしていました。写真はCDと、「ゲッティンゲン」のギター編曲譜。

またもへんてこりんなラインアップで恐縮。みなさんならどれを選びますか。