札幌で29回目のPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)が開かれています。
音楽祭創設者のレナード・バーンスタン生誕100年の今年は、彼の偉業をしのぶプログラムが花ざかりです。


20180725PMF


彼の作品のみで構成された7月21日のPMFオーケストラ演奏会を聞きました。
バレエ音楽「ファンシー・フリー」
セレナード(プラトンの「饗宴」による)
交響曲第2番「不安の時代」

なじみがあるとも、わかりやすいともいえないプログラムにもかかわらず、キタラ大ホールはほぼ満員でした。
わたしも初めての曲ばかりでしたが、心から楽しむことができました。若い音楽家たちがエドウィン・アウトウォーター氏の指揮によく反応し、複雑なスコア(見たわけではありませんが)に込められたバーンスタインの響きを的確に表現していたと思います。


2曲目のセレナードはバイオリン・ソロと弦楽器、打楽器、ハープという編成。ソリストはバーンスタインの愛弟子のひとり、五嶋みどりさんでした。
14歳のときにバーンスタイン指揮の演奏会に出演、演奏中に2回も弦を切るアクシデントに遭いながら、冷静にすぐ後ろのコンサートマスターから楽器を借り受けて、最小限の中断で見事に弾きとおしたという伝説が残っています(映像がユーチューブで見られます)。
あれから30数年、彼女がこの曲を弾く機会が何回あったのか、また、今後弾く予定があるのかもわかりませんが、技術的にも至難と思われるこの曲を、まさに手の内のものとして鮮やかに弾きとおしたのには感嘆しました。




話は変わりますが、バーンスタインには作曲家のほかに、指揮者という顔があります。こちらのバーンスタインには、わたしも(もっぱら録音ですが)数多く接してきました。
長らく名盤と仰いできたワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」(当ブログ2017年3月28日の回にそのジャケットデザインを紹介しました)はその代表的なひとつですが、演奏会形式で行われたこのライブ収録のステージ映像が最近リリースされました。

bernstein tristan


音楽はとてつもない巨大さで流れるのに、指揮姿は決して格好良くない。まことにバーンスタインらしい、ちょっと滑稽にも見えるパフォーマンスを確認することができました。
このあたりが、「楽壇の帝王」と呼ばれたカラヤンと違うところです。

小澤征爾氏は、カラヤンとバーンスタインという2人の師匠について語るときに、カラヤンのことは「カラヤン先生」と呼ぶのに対し、バーンスタインのことは「レニー」と親しみを込めて呼びます。
それが作品からも、「トリスタン」の指揮姿からもわかるような気がするのです。


CATVで見られるクラシックチャンネルCLASSICA 
JAPANでは8月、バーンスタインの映像作品を毎日放送する予定だそうです。彼の作品に親しむ機会になるだろうと楽しみにしています。




最後に余談をひとつ。

PMFは来年30回を迎えます。
そもそもは北京で開く予定だったのが、天安門事件で急遽開催地が札幌に変わったという数奇な運命のもとに生まれた音楽祭ではありますが、「PMFと言えば札幌」は、もはや動かしがたい。
そろそろ音楽祭の名前に「札幌」を明記してもらってもよいのではないか。
世界中の音楽祭で、開催地の地名が入っていない音楽祭があるのだろうか。わたしは知りません。
音楽祭の名前を「PMF札幌」とする。そんな運動が起きることを、札幌を愛する一人として願っているのです。


写真①PMFのパンフレット
写真②「トリスタンとイゾルデ」のブルーレイ・ディスク。このジャケットデザインは褒め言葉が見つからない