3月8日は国際女性デーです。1904年のこの日、ニューヨークで、婦人参政権を要求する女性労働者のデモが行われたのを記念して、国連が制定しました。その後、多くの国で女性参政権が認められていきます。日本で女性が初めて選挙権を行使したのは、戦後初めて実施された1946年4月10日の衆議院選挙でした。
前回、フランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著書「第二の性」をきっかけに、女性解放運動が世界に広がったことに触れました。女性の参政権獲得にも大きな影響を及ぼしたことを考えると、ボーヴォワールが社会変革に果たした役割は計り知れません。
こうした潮流が深く浸透する中での“あの発言”でした。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗・元首相が発した……「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」。今回、わたしがジェンダーをテーマに話を進めてきたのも、この森氏の発言が引き起こした大騒動(辞任劇)を踏まえたものです。
国際女性デーに呼応して現在、SNS上で、ある投票が行われています。過去1年間に発せられた女性蔑視の言葉の中から「ワースト」を決めようという試みです。もちろん森元首相の発言は筆頭格ですが、わたしがもし投票するとしたら……。自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が性暴力被害者の支援に関連して発した次の言葉を挙げます。
「女性はいくらでも嘘をつけます!」
この女性議員はかねて、問題の多い人物で、政治家としては極めて危険な存在です。同性として擁護すべき女性を、平然と貶める発言をする人物とは一体、何者?
杉田議員の発言は、昨年9月、自民党の合同会議で、政府の担当者から性暴力被害者の相談事業に関する説明を受けた際に発せられました。杉田氏は相談事業には警察が積極的に関与すべきだと主張したうえで、「女性はいくらでも嘘をつける」と虚偽申告があり得るとする発言をしたのです。しかも、確信犯的に。
彼女は「女性を蔑視するような発言をした覚えはない」としらを切っていますが、会議に参加した多くの議員が「確かに言った」と証言しています。発言を巡って、議員辞職を求める動きが巻き起こったものの、世はコロナに追われ、五輪開催の有無や首相の息子の接待疑惑など次から次へと難題が噴出。結局はうやむやになっているのが現状なのです。
杉田氏は鳥取大学農学部を卒業後、ハウスメーカーの社員や兵庫県西宮市職員などを経て政界入り。旧日本維新の会から自民党に鞍替えし、2017年の前回衆院選で比例中国ブロックから出馬して当選します。
「女性の被害相談には嘘もありうる」。杉田氏の暴言の背景を探ると、名前の通り、ある「水脈」に辿り着きます。みなさんは、フリージャーナリストの伊藤詩織さんが、TBSワシントン支局長だった山口敬之氏の性暴力被害を自らも実名で公表し、強姦被害を訴えたのを覚えていますか? 杉田氏は伊藤さんに対し「女として落ち度があったからだ」と批判し、SNSは大炎上しました。今回の「嘘をつく」発言は、この件が伏線にあるのは明らかです。
杉田氏にはさらに“前科”があります。2018年、月刊誌「新潮45」(新潮社)にLGBTなど性的少数者について「子供をつくらない、つまり生産性がない」と寄稿して大問題になりました。批判を浴びた同誌は休刊に追い込まれましたが、張本人の杉田氏は「お咎めなし」。自民党が容認して守ったのでは…。本来なら即刻、議員辞職です。
杉田氏が国政デビューした背景には、安倍晋三前首相の存在が欠かせません。杉田氏を推したのは、前首相と親密な関係にあるジャーナリスト桜井よしこ氏です。地方出身の無名議員の大胆な言動には、超保守的な安倍、桜井コンビがバックに付いているからなのです!
荒唐無稽、無知蒙昧とも言える杉田氏の言動は、とどまるところを知りません。選択的夫婦別姓の国会論議では「それなら結婚しなくていい」とヤジを飛ばし、産経新聞のニュースサイトにはLGBTや夫婦別姓に関して「コミンテルン(共産主義政党の国際組織)が日本の家族を崩壊させようと仕掛けた」と投稿したのですから。もはや開いた口が塞がりません。
彼女が標的とする「LGBT」や「選択的夫婦別姓」もジェンダーと直結する、極めて大事な問題です。考えを進めましょう。