アイヌの長老を描いた蠣崎波響作「夷酋列像」を巡る長い旅を続けてきました。
なぜこんな旅に彷徨い込んだのでしょう。振り返れば、日本語で「多様性」と訳す「ダイバーシティー」という言葉を、多くの場面で目にするようになったことを受け、それでは、「多様性の素晴らしさ」を考えてみようと提案したのが、アイヌ民族の文化に目を向けるきっかけでした。昨年10月のことですが、みなさん覚えていますか?


多様性
写真1(多様であることは素晴らしい。肌の色の違う人と隣り合わせは普通の時代です)


なぜこのテーマを考えようとしたのでしょうか。それは、最近の日本の政治状況を見渡す中で、せっかく国民の間に盛り上がってきた「多様性」を幅広く受け入れようとする機運に水を差す、多くの言動が気になったからにほかなりません。典型的な例として挙げたのが……麻生太郎副総理兼財務大臣のこの発言でした。


「日本は一つの国で、一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族で、一つの天皇という王朝が長きにわたり続いてきた。こんな国は日本しかない。いい国なんだな。これに勝る証明があったら教えてほしい」


沖縄シーサー
写真2(日本はいつから単一民族の国に? 琉球の守り神シーサーが聞いたら笑われます)


これは、単一民族発言として大きな批判を巻き起こしたのはみなさん記憶に新しいでしょう。ご承知の通り、日本は2000年の長きにわたり、中国大陸や朝鮮半島などから多くの人々が渡来し、この地に定着してきました。沖縄には琉球民族が、わたしたちが暮らす北海道には、アイヌの人たちが先住者として生活を営み、豊かな文化を育んできたことは紛れもない事実です。「単一にこだわることの愚かさ」を知ることこそが、前回までのアイヌの長い旅の目的だったと言って良いと思います。


この未曾有のコロナ禍にあって、件(くだん)の政治家は性も懲りもなく、次のような発言をして再び批判を浴びました。「日本は民度が高いので、ほかの国に比べて圧倒的に死者が少ない」。何を根拠に民度などという愚かしいことを…。さも偉そうに語るこの人物が政界を牛耳っているかと思うと、情けなく、やがて悲しくなります。


しかし、こうした批判の一報で、SNS上では「この発言のどこが問題なの?」といった声が少なくないのも事実です。たとえば「日本はずっと単一民族だよん」「何が悪いの?」「日本人は一つの民族。みんな仲間でしょ。それを否定する人って日本人じゃないよね。日本が嫌いなの?」などなど……です。


アイヌ民族の豊かな文化とその広がりを辿る中で、わたしは、日本が単一民族でなくて本当に良かったと、あらためて感じました。一方で、日本がちっぽけな島国であることが、こんな単一意識、ときには根拠のない優越意識のようなものを育み、植え付けていたとしたら、恐ろしい現実だと思わざるを得ません。


いまわたしたちは新型コロナウイルス(covid19)の感染に怯えています。感染拡大が収まらず、首都圏を中心に発出された緊急事態宣言はさらに延長されています。渦中にあって、個人の行動ひとつひとつを監視して規制する流れが強まっていると感じませんか? 感染者を特別視し、排除しようとする動き…です。しかし、こうしたコロナの時代にこそ、多様かつ変化に柔軟な社会を目指すべきだとわたしは思います。


モアイ像マスク
写真3(札幌市南区滝野にある滝野霊園。入口に置かれた名物のモアイ像もマスク姿です)


多様性とは自分以外の存在を認めることにほかなりません。例えば肌の色の違う人、意見の異なる人…。(自分にとって)異質と思われる者(物)や人と共存するのは、社会的コストを伴う。こうした思考から脱却しない限り、常に異質なものは遠ざける方向へ向かわざるを得ないのです。コロナ禍のいまこそ、多様性を認める社会の実現を目指すべきです。変化に対応できる多彩で、寛容な社会のシステムを構築する努力が必要なのです。みなさん、いかがでしょうか。



SDGs
写真4(このマークも見慣れてきました。SDGs。17のゴールを達成できるでしょうか)


最近、よくこの英語のマークを見かけます。「SDGs」。持続可能な開発目標と訳します。Sustainable Development Goals(サステイナブル・ディベロップメント・ゴールズ)の頭文字を取ったものです。国連総会で採択され、2030年までの達成を目指す国際目標です。17のゴールと169のターゲットで構成されていますが、この目標の根底にあるものは…そう。「多様性の尊重」にほかなりません!


たとえば5番目のゴールは「ジェンダーの平等」を掲げています。男女が共生して社会を築き上げる。この目標は、男性中心の社会が続いてきた日本にとって、最も難しいかもしれません。しかし、世界の意識は急速に変化し、日本はこの流れから取り残されつつあります。掘り下げて考える大事なテーマです。