新しい総理・総裁がまもなく誕生します。



典型的な出来レース。派閥領袖の主導権争いもあり、当初は「主人公」がかすみがちでしたが、どっこい、少しずつ存在感を増しています。早期に解散・総選挙に打って出るとの情報も飛び交います。では、新しい首相を手中にした主人公の菅官房長官。その独自政策とは一体何でしょうか?


菅出馬会見
写真1(安倍政権をすべて継承する。何のための新政権でしょうか)


菅氏は出馬会見で、安倍首相の主要政策を継承し、「負の遺産」ともいえる一連の疑惑(森友・加計・桜)についても「すべて解決済み」と答えました。首相が執拗にこだわった「憲法改正」についても具体的な言及はありませんでした。憲法をどうするのか。これは一国の指導者の国家観です。国を背負って立つ以上、この疑問に答えなければなりません。


憲法改正に直結する安倍政権の「安保・防衛」政策を振り返ってみると、日米同盟を一段と加速させたのは明らかです。北海道新聞は辞任表明後の安倍政権を検証する社説(9月1日付)で、「目に余る対米追随だった」との見出しを掲げ、トランプ政権との蜜月に腐心した外交関係を論じていました。わたしもその通りだと思います。


たとえば4年前。大統領に就任する前から、いち早くニューヨークの私邸に馳せ参じたのを覚えていますか? ほかのどこの国にそんな首脳がいたでしょう。お互いの趣味であるゴルフに興じる姿も記憶に残ります。日本は米国一辺倒で良いのか。こんな素朴な疑問を国民が抱いたとしても、不思議ではありません。


ゴルフ外交
写真2(ゴルフに興じる日米首脳。トランプ氏が登場してから、ずっと仲良しでした)


安倍氏は「地球儀を俯瞰する外交」を標ぼうし、世界80か国もの国々を回りましたが、正直、目に見えた外交成果を生みませんでした。最大の懸案事項である北方領土交渉はどうでしょう。ロシアのプーチン大統領とは27回も会談しました。しかし、日本が目指してきた4島返還を歯舞・色丹の2島返還へと転換させた「懐柔策」は大失敗に終わり、領土は1㍉たりとも動きませんでした。北朝鮮の拉致問題も同様です。「私の時代に解決する」。いまとなってはこんな常套句が空しく響きます。


日ロ首脳会談
写真3(度重なる日ロ首脳会談で、「ウラジーミル」「シンゾー」とファーストネームで呼び合う仲に。それでも領土問題は微動だにしませんでした)


北方領土
写真4(4島返還はいつのまにか2島に後退。ロシアは態度を硬化させるばかりです)


政局が大きく動く時節柄、話が脱線してしまいました。軌道修正しましょう。わたしたちは、前回、「憲法改正」の手続きについて確認することを目指しました。憲法改正の方法については、第96条に書かれていますので、まずはその条文をここに載せます。


憲法96条
写真5(憲法96条です。ハードルが高いのは日本国憲法の重さを象徴しています)


「衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成を得て国会が発議。国民投票にかけたうえで、有権者の過半数の賛成が必要」。これが96条の内容です。つまり、二重のハードルを課しているのです。「国会議員の3分の2の賛成」と「有権者の過半数の賛同」。この高い制約は、「世界で唯一の被爆国となった国が2度と悲惨な戦争を繰り返さない」という意思の表明にほかなりません。

日本では戦後、1度も憲法改正が行われてきませんでした。日本と同様、敗戦国のドイツではすでに60回、憲法が改正されました。アメリカでは6回、韓国は9回。いずれも改正に伴い、国民投票の実施を義務付けておらず、改正のハードルは日本より低いと言えます。逆に、日本国憲法の頑なさこそが、憲法を守る強い決意の反映なのです。

現在、衆議院は465議席です。自民・公明の与党が313議席持っており、3分の2に当たる310議席を上回っています。参議院はどうでしょう。242議席のうち自民126議席、公明25議席の計151議席。3分の2(162議席)には届きません。しかし、ご承知の通り、野党や無所属の中には憲法改正に賛成する議員が多数存在します。国民民主、日本維新の会の一部は憲法改正を支持しています。これらを含めると、3分の2を十分、上回る可能性があります。

一方、与党の公明党は野党時代から「平和の党」が党是で、改憲には「慎重論」を貫いてきました。山口那津男代表が繰り返す「改正議論は熟していない」の言葉がそれを物語ります。

高いハードルもいまなら乗り越えられる。千載一遇のチャンス。安倍氏の改憲戦術はここにありました。その戦略もあっけない幕切れです。ただ、ここで安倍氏の功績を挙げるなら、「平和ぼけ」ともいえる国民に、平和憲法とは何かを考える一石を投じたこと。これこそが最大の「功績」――うがった見方でしょうか。