突然の幕引き、再びの途中退場。安倍首相の辞任表明には驚きました。潰瘍性大腸炎の悪化、つまり体調不調です。世間には「病人をたたいてはならない」との声もありますが、それを承知のうえで、日本の最高責任者として、2度連続して、同じ理由で政権を投げ出した批判は免れない。わたしはそう思います。

歴代最長政権を更新した途端の辞任表明でした。7年8カ月に及んだ長期政権をどう総括するかは、みなさんそれぞれにお任せします。ただ、すべての政策が中途半端に放り出された感は拭えません。喫緊のコロナ対策はどうなるのか。1年延期となった東京五輪は? 森友・加計問題や「桜を見る会」の説明責任は結局、全く果たさず、アベノミクスが目指したデフレ脱却も実現できず…。課題を取り散らかして「さようなら」です。

何より、わたしが今回のテーマに掲げた「憲法改正」についても、掛け声倒れの終焉です。あれほど熱っぽく「改憲」を唱えながら、最後の会見では執着の片鱗すらみせなかったのには驚愕です。体調が優れないとはいえ、この人は本当に、本気でやる気があったのか、と。

まもなく次期総理・総裁が決まります。現在名前が挙がっている一人が、古臭い自民党の「派閥の論理」にのっかり、「ポスト安倍」を射止めるのでしょう。ただ、だれが首相になろうとも、「憲法改正」が自民党の党是であることを考えれば、近い将来、必ずや重要課題として浮上するはず。せっかく始めたテーマですから、最後まで語り尽くしましょう。



次期総裁選
写真1(次期首相の座を目指す面々。どの顔になっても防衛・安保政策は政権の要です)

わたしたちは、日本国憲法の支柱である「戦争放棄」をいただく国民として、憲法第9条にこだわる必要があります。フランスを旅し、サンピエール、ルソー、カントなど聖職者や思想家、哲学者の足跡に触れ、この思想が18世紀に発祥したことを確認したのも、こうした問題意識によるものでした。

前回、憲法第9条の全文を掲載しました。日本国憲法の中で、唯一、1章で1条を立てている異例の部分です。文章は極めてシンプルですが、これこそが戦後75年、多くの解釈と論争を生んできた核心部分。では、安倍氏はこの憲法第9条をどうしたかったのでしょうか。これを一言でいうなら、「1、2項を残したうえで、自衛隊の存在を明記する」。これに尽きます。自衛隊は国防軍という表記でも登場します。



改憲メッセージ
写真2(安倍氏は機を捉えて改憲メッセージを発信しました。もう「過去の顔」です)

安倍氏の強い意向を踏まえて、自民党の「憲法改正推進本部」が提示した憲法改正案をみてみます。第9条の1項、2項の表現が微妙に異なります。これも大いに気になるところですが、最大の改正点は「第9条の2」を立て、「わが国の平和と独立を守るための実力組織として、内閣総理大臣を最高指揮監督者とする自衛隊(国防軍)を保持する」と明記した点です。文章を新たに加えたことから、「加憲」と言われます。

前回、第9条の最大の特徴として2項に記された「戦力の不保持」「交戦権の否認」を挙げました。しかし、その文言は排除されているどころか、驚くべきは第9条のタイトル、日本国憲法の象徴である「戦争の放棄」の文言そのものが消え「安全保障あるいは平和主義」に変わっていることです。



自衛隊観閲式
写真3(総理大臣は自衛隊の最高指揮官。安倍氏の口癖は「自衛隊は日陰者ではない」)

この部分を精読すると分かりますが、2を加えることにより、自衛隊はこれまでの専守防衛の組織を踏み越えます。安倍氏が「集団的自衛権」の行使を可能とする憲法解釈の変更に踏み切ったのを、みなさん覚えていますね。この変更により、「自衛権の発動が必要」と首相が判断した場合、日本は最大の同盟国である米国と手を携えて相手国を攻撃できる、つまり「戦争放棄」は完全に骨抜きにされることを意味するのです。



稲田朋美
写真4(南スーダンでの陸上自衛隊PKO部隊の日報が破棄されたと嘘をつき続け、ウソがばれて辞任に追い込まれた元防衛相の稲田朋美さん。目に余る混乱ぶりでした)

改革本部のメンバーである稲田朋美・元防衛相(自民党幹事長代行)は安倍氏の懐刀(腰巾着)。ごりごりの改憲論者として知られます。「独立国家が軍隊を保有することはもはや常識」と言って憚りません。ならば、日本がアジア諸国を蹂躙し、広島、長崎に原爆を投下され、膨大な犠牲を払った大戦とは一体何だったのか。彼女はそこをまず語るべきです。

わたしたちは戦後75年、この憲法を守り抜いてきました。自衛隊による専守防衛の基本理念を守り、軍事優先の社会には決して転換しない、と。もし、憲法をいま改正するなら、真剣に世論を喚起し、国民的議論を尽くさなければなりません。

憲法を改正するには、どうしたらよいのか。まずそこを認識しましょう。憲法を改正する手続きは、第96条に書かれています。次はそこを糸口に考えたいと思います。