新聞は日々、さまざまな「気付き」をもたらしてくれます。



前回、ローマ教皇庁から発信された小さなニュースを端緒に、キリシタンの弾圧で殉教し、「福者」の称号を与えられた中浦ジュリアンの話を説き起こしました。400年前、日本人として初めてローマの地を踏み、教皇に謁見した天正遣欧少年使節。派遣された4人の少年の一人だったジュリアンの「最期」は極めて残酷でした。

残る3人の運命は……。そんなことを考えていたわたしは、再び、ローマから発信された共同電の記事にくぎ付けとなりました。いまからちょうど6年前。北海道新聞に掲載された記事をそのまま紹介します(2014年3月22日の夕刊第2社会面)。


伊東マンショ
写真1(少年使節の一人である伊東マンショの肖像画。関係者に驚きが広がりました)


【ローマ共同】九州のキリシタン大名が16世紀後半にローマに派遣した「天正遣欧少年使節」を務めた伊東マンショのものとみられる肖像画がイタリアで見つかった。調査に当たった北部ミラノのトリブルツィオ財団の担当者がこのほど、財団の学術誌に論文を発表した。
論文をまとめた文書保存・管理担当者のパオラ・ディリコさんによると、肖像画は北部在住の同財団関係者が所有。絵の裏には「Mansio」などと記されている。

ディリコさんは遣欧少年使節の史料の調査や専門家による鑑定などの結果、1585年にマンショらが北部ヴェネツィアを訪問した際、ルネサンス期のイタリア画家ティントレットの息子ドメニコ・ティントレットが描いたものと判断した。

肖像画のマンショは着物姿ではなく、スペイン風の衣装を着用。制作を受注したのは父と伝えられるが、衣装の特徴や画風などからドメニコが仕上げたと論文は結論づけている。
 
発見されたマンショの肖像画は2年後の2016年に東京・上野の国立博物館で初公開されました。当時16歳だったマンショの表情が生き生きと描かれた油絵は、歴史愛好家の話題を集めました。キリスト教伝来以来の日本の歴史にも新たな光が当てられたのです。

前々回、リスボンからスペインを経てローマに赴いた少年たちの旅程を紹介しましたが、あらためてその地図を見てみましょう。4人がローマにとどまらず、イタリア国内を巡った足跡が分かります。聖フランチェスコの生誕地アッシジにも立ち寄っていたとは!


少年ルート
写真2(少年たちが辿った旅程。イタリア国内を巡った軌跡が分かります)

伊東マンショの肖像画が描かれたのは、ローマから帰途に就く1585年、ヴェネツィア共和国滞在中でした。この時、4人全員の肖像画が描かれたとされますが、残念ながらこの作品以外、所在は分かりません。イタリア国内のどこかに眠っているのでしょうか?

マンショは帰国後、豊臣秀吉に謁見し、さらに長崎のコレジオで勉学を続け、イエズス会に入会。神学の道を究めるために、ポルトガルの居留地だったマカオに留学して司祭に叙階されます。その後、再び日本に戻って布教に専念する中、病に冒され、1612年に43歳で病没しました。病床では原マルチノが看取ったとの記録が残ります。


原マルチノ
写真3(原マルチノの生涯は4人の中で最もベールに包まれています)

そのマルチノはキリシタンの弾圧が強まる中、1614年にマカオへ永久追放されます。29年に60歳で死去。遺体は当時アジア最大のカトリック教会だった聖パウロ天主堂の地下に埋葬されました。信仰に全身全霊を捧げ、異国マカオで波乱の人生を閉じたのです。


マカオ大聖堂
写真4(マカオの聖パウロ天主堂跡。聖堂は火事で焼失し、正面外壁だけが残っています)

もう一人のメンバーだった千々石ミゲルは、4人の中で唯一、キリスト教を捨て、日本名(清左衛門)に改名しました。教皇に謁見し、新教皇の戴冠式にまで列席したミゲルの棄教は、キリシタン大名や宣教師たちに動揺を広げ、キリシタンの威信失墜につながります。


ミゲル
写真5(ミゲルは棄教後、命の危機にさらされながらも生を全うしました)

ミゲルの心境にどんな変化があったのでしょう。キリシタンからは「裏切り者」の汚名を着せられ、命を狙われながらも64歳の生涯を全うします。こんなミゲルに関し、3年ほど前、「ミゲルは信仰を捨てていなかった?」との見出しで、これまでの定説を覆す驚くべき記事が報道されたのです。報じた朝日新聞の記事を引用します。

「16世紀にキリシタン大名の名代として欧州へ派遣された天正遣欧使節4人の1人、千々石(ちぢわ)ミゲルの墓とされる石碑(長崎県諫早市)の地下から、キリスト教で祈祷の時に使う聖具『「ロザリオ』」とみられるガラス玉などが見つかった。ミゲルは帰国後、キリスト教を捨てたとされてきたが、覆る可能性があるという」

4人の人生はなお多くの謎に包まれており、そのベールの向こう側から現在のわたしたちに「信仰とは何か」を問い掛け続けているように思います。