バルセロナ・ゴチック地区にあるピカソ美術館で、巨匠が青年期に描いた数々の作品を見て歩きました。絵画の基礎を徹底的に身に付けたピカソはどんな世界へと旅立っていくのか。こんな期待を抱かせる美術館を巡っていると、いつしか立ち去りがたい気分になります。


しかし、わたしたちはバルセロナを離れ、次に行くところがあります。急がなければ。でも、その前に美術館から徒歩10分のある場所に立ち寄ってからにしましょう。


パリといえばシャンゼリゼ通り、バルセロナといえば…? ランブラス通りです。歩行者天国の街路には大道芸人が繰り出し、若き芸術家がキャンバスを広げ、多くの露店が並んでいます。365日、祝祭の賑いです。


ピカソ美術館は、港を背にしてランブラス通りの右手に広がる旧市街ゴチック地区にあります。いま向かっている「ある場所」とは、このゴチック地区にあるカフェ・レストラン「クアトロ・ガッツ」。スペイン語で「4匹の猫」の意味です。


ギャッツ
写真1(4匹の猫を意味するカフェ4
Gats


この店は、パリにあったキャバレー「黒猫(シャ・ノワール)」を模して1897年にオープンしました。カタルーニャ地方の芸術家たちのたまり場で、夜ごと、談論風発の芸術論が戦わされました。当時、18歳だった無名のピカソも仲間とともに出入りし、芸術への思いを朝まで語り明かした場所です。のちにここで個展も開いています。


4匹の猫」はその後、寂れて閉店しますが、ピカソ生誕100周年の1981年、当時の雰囲気を再現する形で再開し、現在は多くの観光客やピカソファンが訪れています。


「4GATS」の店名ロゴの入ったカップでエスプレッソを一杯。ピカソの青春時代に思いを馳せ、時を過ごすと、なんと幸せな気分になることか。ガウディのサグラダ・ファミリア教会(聖家族教会)に行かなくとも、バルセロナを満喫した価値があります!




さて、バルセロナ空港を離陸した小型機は、地中海を右手に旋回し、フランスと国境を隔てるピレネー山脈に沿って北西へ向かいます。大西洋に面したビスケー湾が見えると、まもなく着陸。飛行時間は1時間弱。降り立った先はスペイン北部の都市ビルバオです。




スペインというと皆さん、どんな都市の名前を思い浮かべますか。



首都マドリッド、第2の都市バルセロナ。アルハンブラ宮殿で知られるグラナダやカルメンの舞台として有名なセビリヤ、オレンジの産地バレンシアもご存知でしょうか。こうした都市はどちらかというと南に偏っていますが、いまわたしたちが到着したビルバオは、マドリード以北最大の都市です。周辺地域を合わせた人口は約110万人。まちには地下鉄が2系統走り、地下街も発達するなど一大都市圏を形成しています。



地図を見てみましょう。ビルバオのあるこの北部は、バスク地方と呼ばれます。フランスと国境を接するピレネー山脈の西端に広がっていますが、フランス側にも同様のバスク地方があり、かつては両国にまたがるこの地に、独自の言語を有する国が存在していました。

ビルバオ
写真2(スペイン北部の中心都市ビルバオ)


しかも、バスク人は血液型がほぼRhマイナスで、バスク語の言語体系は欧州言語とは全く異なるなど、世界7不思議のひとつに数えられている地方です。




寄り道ついでに、1549年に日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルはこの地方の出身で、バスクには親日家が多いことでも知られます。ザビエルの生誕地はビルバオからも近く、「ザビエル城」として公開されています。ザビエルもきっと、Rhマイナスだったのでしょう。




わたしたちの目的地は実はここビルバオではありません。さらに北西30キロ。ピレネー山脈の山裾に息づく小さなまちを目指します。


まちの名は……「ゲルニカ」。パブロ・ピカソが描いた「1枚の絵」によって、世界中の人々に戦争の記憶をとどめることになったまちです。


ゲルニカ画像
写真3(ピカソ作「ゲルニカ」)




写真1:ピカソが通い芸術論を熱く語ったカフェ「クアトロ・ギャッツ」

写真2:スペイン北部の中心都市ビルバオ

写真3:この絵がゲルニカの名を世界に知らしめました