天皇の代替わりで、三種の神器が話題になっています。
またまたワーグナーの歌劇「ローエングリン」を持ち出して恐縮ですが、このオペラの幕切れ直前に、中世ヨーロッパ流「三種の神器」が登場します。
角笛、剣、指環です。
ヒロインの姫を悪だくみから救出し、公国の指導者となった白鳥の騎士ローエングリンでしたが、彼は聖杯城から神によって遣わされた存在で、誰に対してであれその正体を明かすことは許されません。
姫も「禁問」を受け入れることによって助けられ、彼を夫とすることになったのですが、悪者のそそのかしに抗しきれずついに誓いを破り、禁じられた問いを発してしまいます。
こうして悲劇の別れの場面となるのですが、立ち去り際、後継の指導者となる姫の弟に、主人公ローエングリンがこの3つを残していくのです。
<弟が帰ってきたら、遠くにいる私に代わって、この角笛と、剣と指環を渡してくれ。
危急の際には角笛を吹けば、助けてもらえよう。
激しい戦闘では、この剣が勝利を呼ぶ。
だが、指環こそ、私を記念するようすが
かつてそなたを恥辱の苦しみから救ったことを思い出してもらおう>
(三宅幸夫ほか編訳「ローエングリン」五柳書院から)
日本の天皇家に伝わる三種の神器については、ここでは触れません。
いずれにしても、洋の東西を問わず、「3」という数字は特別のものらしい。キリスト教では、「三位一体」がとても重要な教義です。
しかし、前回ブログで話題にした「トゥーランドット」の「3つの謎」とか、3人の人物(姉妹や家来など)はよく出てくるものの、3つの宝物に類するものはあまりないのではないでしょうか。
ワーグナーは晩年、ローエングリンの父である聖杯の王を主人公に「パルジファル」を完成させますが、ここでの宝物(?)は聖杯と聖槍のふたつ。同じワーグナーで、「ニーベルングの指環」だと、宝物は指環と隠れ兜、やはりふたつです。
モーツァルトの「魔笛」で、王子らに贈られて活躍するのも魔法の笛と鈴のふたつです。
なかなか「3大ナニナニ」とはならない。
そういえば「ローエングリン」の三種の神器も重要な位置づけはされていません。3つのうち剣は、確かに悪者をやっつけるのに活躍しましたが、角笛と指環はこれ以前の場面で登場しておらず、唐突に出てくるのです。この場面にワーグナーが付けた音楽も印象に残るようなものではない。というわけで、「あらすじ」では省略されてしまうことがほとんどです。
物語はワーグナーが中世の散文叙事詩をヒントに物語を創作したものですが、このエピソードは未消化のまま盛り込んだためにこうなったらしい。
このブログも竜頭蛇尾になってしまいました。
かつて読んだ本で、日本の昔話の主人公(桃太郎か一寸法師だったか)にもおじいさんとおばあさんが「3種の神器」的なものを持たせる場面があって、その類似性に感動?したと記憶するのですが、いろいろ調べてもその本に再会できませんでした。ご存知の方がおられればご教示願いたい。
さて、天皇家に代々伝わるとされる三種の神器は、実はそのものを見た人は誰もいないのですね。こういうことは、ヨーロッパでは絶対に起こらないというか、許されないに違いありません。