ブルーノ・ガンツさん、ドナルド・キーンさんに続いて、今回は音楽家の訃報に捧げるブログです。

アンドレ・プレヴィン(2月28日没)。(音楽家には「さん」を付けない自分がおかしい)
日本では、NHK交響楽団の首席客演指揮者(2009~12年)でおなじみかもしれません。クラシックのほかジャズの作曲・編曲、ピアノ演奏、そして映画界でも『マイ・フェア・レディ』の作曲・編曲などでアカデミー賞受賞4回と、才能を発揮し続けたマルチなミュージシャンでした。

わたしが彼の名を知ったのは高校生のころです。彼はギター協奏曲を1曲書いており、ソリストにジョン・ウィリアムス(映画音楽作曲家とは別人のクラシック・ギタリスト)を迎え、自身がロンドン交響楽団を指揮して初演・レコーディングも行われました。
わたしがクラシックギターに熱中していたころのことです。

ギター弾きにとってこれはすごい曲でした。現代音楽の中でどう位置づけられるのかは、わかりませんでしたが、ソロのクラシックギターのほかにエレキギターが重要な役割を果たします。ロックのようなジャズのようなエレキギターと、オーソドックスなクラシックギターが格闘するように交互に演奏し、最後はクラシックギターが勝利して(?)静かに曲を結ぶ、という構成です。

思い出すのが、2008年に制作されたプレヴィンのドキュメンタリー映像のシーンです。
ロック・ギタリストである息子ルーカスとの会話。ルーカスはロックバンドのザ・フーが大好きだったのに、父プレヴィンに聴くことを禁じられていた。ある晩ルーカスは、両親が寝静まってから家のクラシックギターをロックのようにかき鳴らして、父プレヴィンにこっぴどく叱られた、と思い出を語っているのです。

その後、父プレヴィンはロックへの理解を深めていき、ルーカスとはとてもいい父子関係になっていったことが、映像からよくわかるのですが、あの夜のできごとがギター協奏曲に影響しているのではないか、なんて想像するわけです。

オペラも2曲書いています。「欲望という名の電車」と「逢びき」。いずれも映画がヒットしたという共通点があります。
前者はテネシー・ウィリアムズ原作、1951年のエリア・カザン監督作品。後者はノエル・カワード原作(戯曲のタイトルは「静物画」)、1945年のデイヴィッド・リーン監督作品。
上述のドキュメンタリーは「逢びき」作曲中に制作されたため、その話が出てきます。プレヴィンの発言が面白い。

「最初にかいたもの(「欲望…」)よりは今の方(「逢びき」)の方がいい。荒々しさが増している」

年齢を重ねた方が荒々しくていいとは! 

そんな“永遠の青年“ぶりは、華やかな結婚歴からもわかります。何と5回!
ヒット映画『フォロー・ミー』(キャロル・リード監督1972年)などで有名なミア・ファローは3人目、カラヤンの秘蔵子といわれたヴァイオリニスト、アンネ-ゾフィー・ムターは5人目の伴侶でした。
しかも、この2人とは離婚後も良好な関係を保っていることが、ドキュメンタリーからよくわかるのです。

レコード会社はことし、彼の生誕90年を記念する特別盤を企画していましたが、予期せず追悼盤になってしまいました。


ブログ追悼



才人音楽家ではもう1人、ミヒャエル・ギ―レン(3月8日没)にも一言捧げたい。作曲家でもありますが、プレヴィンのように自作自演のCDをメジャーレーベルから出す機会には恵まれなかったようです。
いずれにせよ、作曲もする指揮者ということで現代音楽系が評価される傾向にあるものの、伝統的な音楽でも彫りの深い名演を残しています。何しろ、カリスマ指揮者のカルロス・クライバーととても仲が良かったのです。

ベルクらモダンな管弦楽曲とのカップリングがユニークなマーラーの交響曲シリーズ、シェーンベルクの大作「グレの歌」、それにスクリアビンの交響曲などは、注目に値する遺産だと思います。

いまごろは天国でクライバーと音楽談義に花を咲かせているかもしれません。