生のオペラに触れる機会を頻繁には持てない愛好家にとっては、映像ソフトを手に入れて家庭のテレビで見ることが、楽しみのひとつになります。
それなのに、日本語字幕のないソフトがまだまだ多いのです。アジアの国だから仕方がない、と言うなかれ。中国語や韓国語は入っているのに日本語がないというソフトを、わたしは何枚も持っています。
これは「国力」の衰えを示すのではないか。
メディアがビデオテープだった時代は、国内の音楽ソフト制作会社が日本語字幕を入れた国内向け専用のソフトを販売していました。
デジタルの時代になると、メディア(DVD、そしてブルーレイ)にはより多くの情報が入れられます。初めから多言語の字幕を入れ、視聴者が選択して表示させる国際統一版の時代です。各国版を別々につくるより低コストであることは言うまでもありません。
コンテンツの大半を押さえている欧州のメーカーは、英仏独語はほぼすべてのソフトで採用していますし、スペイン語、イタリア語もかなり多くなっています。なかにはスペインから独立を目指す動きのあるカタロニア語を選べるソフトもあります。
では、それ以外は。作る側は当然、採算性を頭に入れるでしょうが、売る以前の協賛者の存在も大きいのだと思います。
日本語字幕が少ないことは、日本の「国力」の衰えの現れに他ならないのでしょう。
試しに、クラシック音楽ソフトが充実しているHMVのホームページをデータベース代わりにして、オペラ作品の字幕について2015年以降を調べてみました。
2015年は総数81タイトルのうち、何らかの字幕が入っているものは71。
このうち、日本語字幕入りは26しかありませんでした(日本語字幕のみの国内盤を含む)。割合にすると全体の32%です。
日本語字幕がない45タイトルのうち、欧州各国語のみは28、中韓も付いているのは17。これほどの作品で漢字やハングルの字幕は選べるのに日本語はない。
これは我慢できる差ではないでしょう。
ただ、事態は年々改善されています。
翌2016年は総数75タイトルのうち、日本語字幕入りは33(44%)、中韓があって日本語がないのは7。
2017年は総数65、日本語字幕は48(74%)、中韓のみとの差は3にまで縮まりました。
昨2018年も総数61タイトルのうち、日本語字幕は44(72%)に入っており、中韓はあるのに日本語がないものはやはり3タイトルでした。
ここは日本語字幕100%を目指して世論を盛り上げたいものです。
作品をよく知っているとしても、また、語学に堪能であったとしても、母国語の字幕で確認できることは、オペラの理解度を大きく引き上げるからです(作品によっては、字幕の文句で泣いてしまうこともあるのです、ほんとの話)。
作品による偏りもあるようです。わたしの愛するドイツ=オーストリア系のオペラは日本語字幕なしが多い、と見えるのは、決してヒガ目のせいではないと思います。
個人的には、これを優先的になんとかしてほしい。
話をもう少し広げますと、
音声のみのCDソフトの日本語対訳も減っています。
オペラの国内盤制作は総数がめっきり減りました。再発売もので対訳がついていないケースも増えました。
「読むオペラ」などと称して、対訳本が出版されてもいますが、ソフトに加えて書籍までもとなると、一般の愛好家には負担が大きい。
重宝するのは、無料対訳ページ「オペラ対訳プロジェクト」でしょうか。
https://www31.atwiki.jp/oper/
一般的な作品はかなり網羅されています。
時間ができたら、一般的でないドイツものオペラ(ツェムリンスキーなど)の対訳に挑戦し、このページに投稿する、というのがわたしの「でっかい夢」です。
いつか技術が進歩したら、映像に合わせて投稿字幕が流れるようなネット放送もできるかもしれません。
そのためには、愛好家がもっと増えなえればならない、となると結局、「鶏が先か、卵が先か」という話になってしまいますが。
写真は所有映像ソフトのうち、中韓はあるのに日本語字幕のないものの一部