世界が魚介類の魅力に開眼して水産物の争奪戦となり、日本の買い付け能力が追い付かなくなる。
この「買い負け」と呼ばれる現象が注目されだして、もう10数年になります。
同じようなことが文化の面でも起こっているのではないか。
そんなことを感じさせる動きがあります。
公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS、東京)が企業に呼び掛けている<オペラ・フェスティバル>賛助会員入会勧誘です。
欧州の有名歌劇場のソリスト、オーケストラ、合唱団、バレエ団を、舞台装置などとともにそっくり招いて日本のファンに楽しんでもらう「引っ越し公演」。<オペラ・フェスティバル>(NBSと日経新聞主催)では、1996年以来、ウィーン国立歌劇場や英国ロイヤル・オペラ、ミラノ・スカラ座など、世界の一流どころの引っ越し公演を、間を空けず定期的に開いてきました。
招かれる側も、東京の市場の大きさ、観客聴衆の質の高さを高く評価しています。日本びいきのアーティストを数え上げればきりがないほどです。
もちろん、NBS以外の招聘会社が開く引っ越し公演もありますが、巨額の費用がかかるこうした催しをここまで頻繁に開けるのはNBSならでは、といっていいでしょう。
その様相が変わってきた、というのです。
「法人賛助会 ご入会のお願い」には、以下のようなことが書かれています。
近年、アジアの近隣諸国でも次々に立派なオペラハウスが建ち、国を挙げて引っ越し公演に取り組む例が増えていること。
欧州のオペラ団体は国立や州立などの公的機関であり、引っ越し公演を国際文化交流事業と位置付けていること。
こうした中では、「先進国」の招聘団体として中心を担ってきたNBSといえどもお株を奪われかねないこと。
これは単にNBSの経営問題にはとどまらない問題を含んでいるでしょう。一部のオペラファンの不便というだけの問題でもないですし、大型公演の周辺で成り立つサービス産業だけの問題でもないでしょう。
あまり「競争」を強調したくはありませんが、
東京や大阪など主要都市が、そうした団体の公演をしばしば開催する文化度の高い都市であることは、都市として世界に伍していくために不可欠でしょう。
また国民・市民が海外の一流文化に触れておくことは、国際化するビジネスでも日本のパワーを後押しするに違いない。
この先、優秀な海外人材にもっと幅広く日本で働いてもらおうというのであれば、その環境整備としても、文化をないがしろにはできません。
おいしい魚介類が食べられなくなる「買い負け」も困りますが、これも同じ程度に深刻な事態だ、とは言えないでしょうか。
NBSや招聘団体は、国がもっと文化に力を入れてくれるよう、要請活動を行うとともに、この「お願い」では、民間企業の後押しを必死に訴えているのです。
札幌文化芸術劇場(hitaru)を活用していかなければならない札幌にとっても、一緒に考えていかなければならない問題ではないでしょうか。
写真はNBSが招聘した世界の一流オペラ「引っ越し公演」のプログラム