「つばなれ」
という言葉があります。
落語の世界で、10人以上のお客を集めること。
釣りの世界には
「ツ抜け」
という言葉もあります。
釣果が10匹を超えることです。
10未満は、ひとつ、ふたつ、みっつ…と言葉の最後に「つ」が付きますが、10になると付きません。
落語のお客と釣った魚では、だいぶ重みが違うようにも思いますが、いずれにしても10を超える数を集めるのは、それなりの苦労や技術が要る、ということですね。
落語の聴衆(観衆?)がひとけたとは、ずいぶん少ないと思う人もいるかもしれませんが、常設の寄席の、開場まもなくの時間帯ではよくあったことだそうです。寄席の外のイベント会場だと、天気次第でもそんなことがあります。
噺家さんとお話をさせていただくと、客はたった一人だったという経験をお持ちの人に本当に出会うことがあります。
そんな少ない客が相手でも、懸命に自分の芸を披露し、芸を磨いて一人前に育っていく。
決して手抜きはしない、と誇らしげに語る噺家さんに何人も会いました。
さて、そこで、ジュリーこと沢田研二さんの今回の騒動です。
若手噺家と、超ベテランの音楽家を並べることはできません。
若手が、少ない客に全力を尽くすのがプロ意識なら、自分が満足できる雰囲気の会場でしか歌わないというのも、プロ意識なのでしょう。ファンのなかには「ジュリーらしい」と理解を示す人も少なくないとのことです。
音楽の世界には「キャンセル魔」と呼ばれ畏れられる人が、少なからずいることも事実です。キャンセルがその音楽家のカリスマ性をますます高める例もあります。
それにしても、興行の世界の端っこから眺めると、主催者の困惑が手に取るようです。
沢田さんのファンといえば、決して若い人ばかりではありますまい。ライブに行くのは何年ぶり、という人もいたことでしょう。どれだけ彼のステージを楽しみにしていたことか。
そんなことを考えると、沢田さんの行動を理解するのはなかなか難しい。
沢田さんのような「意地」の強い人が次々と現れるようなことが、なければいいのですが。