札幌の新劇場「札幌文化芸術劇場(愛称hitaruヒタル)」がオープンしました。
劇場が東京二期会などと共同制作したヴェルディのオペラ「アイーダ」(アンドレア・バッティストーニ指揮、札幌交響楽団など)の2日間のこけら落とし公演では、満席の聴衆が惜しみない拍手をおくりました。

上演を論評する力はありませんので、考えたことを徒然なるままに書きます。

第一に、この劇場は札幌の「都市の格」とでも言うべきものを、確実に一段押し上げた、ということです。
カーテンコールに拍手を送りながら、わたしは幸福感に満たされていました。こういう場を自分たちのまちも持つことができたのだ、と。
たまに上京してオペラを見ます。会場は上野の文化会館、新宿初台の新国立劇場、それに神奈川県民ホール、NHKホールなど。言うまでもありません。それらホールを断然圧する魅力をこのホールは備えています。
福岡からわざわざやってきた知人は「札幌がうらやましい」と、ため息交じりに話していました。
この劇場は、市の外にいる愛好家たち、そして専門家たちさえもが、札幌を強く意識する大きな「武器」になりえます。

第2に、当然ですが、このまちに住む多くの人たちも、この劇場を通じてオペラという芸術に接する機会がやっとできました。
わたしの身近にも、この機会に初めて本格的なオペラを見て、すっかり心を奪われた人が何人もいます。
北海道二期会が3月に上演する「椿姫」(ヴェルディ作曲)の先行販売が行われていましたが、公演を機に売り上げが急増したことが、それを裏付けます。劇場自主制作の次回作品「トゥーランドット」(プッチーニ作曲)にも、強い関心が寄せられています。

この後、バレエとミュージカルの公演も予定されています。これらのジャンルでも、新しいファンが増えていくことでしょう。

札幌市民、北海道民はもちろん、日本全国あるいは海外からも客を呼べるような充実した公演を、切れ目なく開いてほしいものです。このホールの上演なら、客を呼べるはずです。

そう言いながら、そうはいかない現実もあらためて気になりました。
それは、この館に与えられた「ニトリ文化ホールの後継」という使命です。つまり、音楽・舞踊専用ではない、貸館としての役割、集会場としての役割が期待されていることです。

関係者の一部に、館の芸術監督がいないことを案ずる声があります。施設だけ見れば、懸念はその通り。しかし、自主公演が限定的にしか開けない内実を思えば、芸術監督というポストはいかにも贅沢なものに思われます。

この点については、さらに論議の盛り上がりを期待したいところです。

最後に、
貸館であれば、わたしたち民間事業者が「借館」して、どんどん優れた公演プランを持ち込めばいいわけですが、言うほど簡単ではないことも知っていただきたい。
今回のような公演を、このチケット価格で提供することは至難です。この価格がオペラ観劇の相場で定着すれば、わたしたちが自力でオペラ団体や外来歌劇団を招くのは、リスクの極めて大きな冒険になってしまうでしょう。
大勢の出演者、スタッフに移動してもらい、大規模な舞台装置も運搬してこなければならないという札幌では、宿命的に「高コスト」がついて回るからです。

せっかくオペラの魅力に目覚めた多くのみなさんに満足のできる公演を数多く提供したい。興行で札幌のまちの魅力を高めることに貢献したい。
強い思いを抱きながら、さて、どうしたらそれができるか。考えるのは、楽しくもあり恐ろしくもあり、といったところなのです。

宣伝です。ヒタルが入った札幌市民交流プラザの2階には、音楽会などのチケットが買えるチケットセンターがあり、その運営を道新文化事業社が請け負っています。道新ビル1階の道新プレイガイドともども、よろしくお願い申し上げます。

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