新国立劇場の演劇研修所が2008年から上演している朗読劇「少年口伝隊一九四五」を、ことしようやく見てきました(8月3日新国立劇場小ホール)。

作家の井上ひさし氏(1934-2010)が、原爆投下後の広島であった実話もとにフィクションとして書き下ろした作品です。講談社から同じタイトルで出版もされています。
最小限の舞台装置のみで、衣装なし、動作は抑えられ、効果音や楽団もなしのシンプルなものですが、ギター独奏が大きな役割を果たします。
その演奏を初演以来、ひとりで担当しているのが札幌出身のギタリスト・宮下祥子さん(当ブログ2017年11月の<彩り豊かな『冬の旅』>でも登場していただいた)。井上氏が都内で偶然、宮下さんの演奏を聴いて、その音楽を耳に浮かべながらこの作品を書いたといいます。
曲目も、「ギターのベートーヴェン」と呼ばれるスペイン出身のギタリスト兼作曲家・フェルナンド・ソル(1778?-1839)の悲歌風幻想曲と指定されています。
ギター好きとしては、注目しないわけにはいきません。
主人公は3人の少年。3人は、破壊されて新聞を発行できなくなった中国新聞の女性記者が、街頭でニュースを読み上げているのに出会い、その手伝いをするようになります。
「広島駅は、このたびの新型爆弾で被害を受けた方に限って、無料で乗車させることにしました」
「広島県知事からの告示です。広島市民の税金が待ってもらえます。一年間、待ってもらえます」
混乱の中でも、懸命に情報を伝えようとした人たち。新聞社に身を置いた者として、切実に胸に迫ってきました。
音楽は、ト書きで指定されています。
<ギター奏者による序奏>
<ギター奏者が長いあいだ弾いている>
など。しかし、臨機応変に短い演奏がはさまれていきます。
右手指で弦を引っ張り上げて指版にバチッとたたきつける衝撃的な奏法も、効果音として生きていました。
これらは演出の栗山民也氏と宮下さんの共同作業で生み出されたのでしょう。
音楽家にとって芝居とのコラボレーションは、音楽のアンサンブルとは違った難しさがあっただろうと想像します。
毎年、満席が続く公演ですが、今年も4日間、老若男女が席を埋めたと聞きました。
広島、長崎の原爆忌を迎えましたが、被爆体験の継承が、年ごとに大きな課題となっています。朗読劇「口伝隊一九四五」は、その課題の解決に一定の力を発揮することでしょう。
新国立劇場演劇研修所の研修生も、宮下さんも、実際に広島に足を運び、被爆者らの話も聞いたといいます。
ことし8月の4回を含めて、上演はこれまでに28回(ほかに井上作品の上演に取り組んでいるこまつ座の10日間連続公演あり)。2期生からことしの12期生まで、100人ほどの若い演劇人によって演じられたことになります。
演劇界に、広島について深く考える若者が広がっていくというのは素晴らしいことであります。
まだ回数は少ないのですが、地方公演も行われています。
北海道でも見たい、という声が広がることを期待してしまいます。
写真①「少年口伝隊一九四五」開演前のステージ(ホームページから)
写真②講談社刊の「少年口伝隊一九四五」