イタリアオペラの世界的名歌手たちが、NHKの招聘で継続的に日本公演を行った時代がありました。


1957年の第1回に始まる「NHKイタリアオペラ」です。1976年の第8回まで続きました。日本の人々が初めて、自国で本格的なオペラに触れる機会となったのでした。
記念すべき初年の初回公演は9月29日。演目はヴェルディ作曲の「アイーダ」。歌手たちはアイーダにアントニエッタ・ステッラ、アムネリスにジュリエッタ・シミオナート、ラダメスにはウンベルト・ボルソ…。そうそうたる顔ぶれです(指揮はヴィットリオ・グイ、管弦楽はN響)。
「アイーダ」のほかにも、モーツァルト「フィガロの結婚」、プッチーニ「トスカ」、それにヴェルディ「ファルスタッフ」という人気演目が東京、大阪で上演され、NHKテレビでも放映され、多くのファンの心を捕らえたのです。

第2回以降は、あのマリオ・デル・モナコやティト・ゴッピらも来ています。
公演会場にも歴史が感じられます。初日は東京宝塚劇場。ほかに産経ホールなどが使われました。第2回となる59年にようやく上野の東京文化会館が落成して会場になっています。NHKホールの完成は第7回の1973年です。



あれから60年余、同じ「アイーダ」が札幌の新しいホール「札幌芸術文化劇場hitaru(ヒタル)」で上演されます。

ブログhitaru


先日のチケット発売では、本当に多くの皆さんが、電話で、インターネットで、そして販売窓口でチケットをお求めになりました。残念ながら、提供席数が希望数を大きく下回り、購入がかなわなかった方も大勢、おられました。窓口の売りさばきが順調にいかず、並んだ方に苦痛を与えたことは、販売を担当した立場として申し訳なく思います。


さて、首尾よくチケットを手にされた中に、学生時代に第1回イタリアオペラを見に上京した、というご婦人がおられました。
北海道教育大学札幌校の「特音コース」で学んでおられたときのことだそうです。「音楽専攻の学生に、特別のあっせんがあったので行けたのです」とのこと。その思い出とともに、今回のこけら落としのチケットを、本当にいとおしそうに見つめておられました。
今回、ご年配の方のご購入が多かったところを見ると、彼女のように実際に公演を観たかどうかは別として「NHKイタリアオペラ」がまいた種が、札幌でもしっかり育っていたと言えるのかもしれません。


1950年代後半は、まさに日本の高度成長期のスタートダッシュの時代でした。音楽界では、第1回イタリアオペラと同じ57年にウィーンフィルが初来日を果たし、翌年にはベルリンフィルがカラヤンとともに来日しています。まさに日の出の勢いだったのでしょう。


それでも、地方の音楽学生にもあっせんがあったところを見ると、東京で4演目13公演のオペラを観衆でいっぱいにするのに不安があったのでしょう。ひょっとしたら、鑑賞態度に心配のいらない聴衆を一定程度確保しておきたいという思いもあったかも、などと想像します。

今回、主催の札幌市芸術文化財団は、できるだけ多くの一般のファンの方々にチケットが行き渡るようにと、関係者への招待枠を極力抑えたといいます。それでも、発売初日でチケットは完売。これには正直、驚かされました。


これが札幌のファンの厚みを反映したものであるなら、多くの予算をかけて新ホールを建設した意味があるというものです。
また、これを機会にオペラに親しむ市民が増えることも期待したい。今後の公演でも、多くのお客様をお迎えできることを願っています。


(写真)会社の応接室から劇場の建物が見えます。商工会議所の向こうが高層のオフィス棟。その向こうが劇場棟です。